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『武州通信』第254号

 都立高校の合格発表も終わり、ホッと一息。受験生は孤独の中で本当によく頑張りました。この経験を生かして、より充実した高校生活を送ってほしいと願っています。

《何のため、誰のための教育改革?》の巻

 学習指導要領が改訂され、2020年度から小学校、2021年度から中学校、それに2022年度からは高校で、「新しい教育制度」が発足します。それにあわせて2020年度から「高大(高校大学)接続システム改革」が始まります。

 そこで、3月2日(土)の『オアシス武州』では、長年 “教育コンサルタント” をされている知人の小林弘典さんに、「何のため、誰のための教育改革?」と題してお話していただきました。

 この一連の教育改革に共通する骨組みは、「学力の3要素(➀基礎的な知識・技能、➁思考力・判断力・表現力、➂主体性・多様性・協働性)」の涵養を通して逞しい「生きる力」を育むこと、それに「伝統と文化」の尊重です。

 では、「高大接続システム改革」におけるその具体的な様子を見てみましょう。
Ⅰ.「高校生のための学びの基礎診断(民間資格検定試験)」を高校生に受けさせることで “基礎的な知識・技能” の有無を判断=2024年度からはその結果を大学入試に本格的に採用。
Ⅱ.「大学入学共通テスト」で国語、数学に記述式を導入することで “思考力・判断力・表現力” を評価。
Ⅲ. 各大学の「個別選択(面接、調査書、討論)」で、“主体性・多様性・協働性” を判断=2024年度からは「eポートフォリオ(中学・高校時代の活動の申告書=海外留学やボランティア活動などは加点)」の活用。
Ⅳ. 英語の、読む・聞く・話す・書く、の4技能を導入することでグローバル化へ対応=2020年度から「大学入学共通テスト」で2技能(読む・聞く)を判断し他技能(話す・書く)は民間資格検定試験を採用、また2024年度からは4技能すべてに民間資格検定試験を採用。
 更に、国立大学を3類型に分け、➀世界水準型(世界最高水準の研究をする16大学)➁特定分野型(特定分野の研究をする15大学)➂地域貢献型(地域活性化の中核となる55大学)というように “世界水準型大学” を頂点に役割によってレベル分けし、他方、私立大学には、一部の専門学校を格上げし底辺大学を格下げ?する「専門職大学」の認定や、私立大学の「教育研究活動等の状況公表の義務化」で行政がチェック(今までズボラだった私立大学を規制強化)できるようになります。

 ところで、こうした改革の概要を一瞥しただけでは事の本質はなかなか見えてきませんね。そこで小林さんの分析結果に耳を傾けることにしましょう。  
 小林さんは、この教育改革に通底する4つの潮流として、グローバル化で貧乏国へ転落する危機感の中で「Japan as No.1の復活」、そのための「理系重視」、「教育内容の規制強化」、更に「教育制度の緩和(教育の市場化)」を挙げています。確かにこの流れは “日本の地盤沈下への不安” と “教育への期待” とが反映しているに違いありません。
 どうやらここには、人材育成機関としての「高等教育(大学)」の再編・新設による起死回生の思いが背後にありそうです。新学習指導要領と高大接続システム改革は、おそらく国家が作り出したい人材として STEM(科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics))人材および英語のできる人材であり、しかも、主体性をもって生き生きと彼らと協働する周りの人々の養成、ということになるでしょう。つまり、それは「一人のビル・ゲイツ(成功者)とそれをさまざまな立場で支える人材の育成」ということになります、そして個々人は道徳心をもってチームジャパンの一員として活動すべきである、と。
 しかし、小林さんは、高大接続システム改革をつぶさに見ると、おそらくそれは結局、国民の貧富の格差を助長する方向にしかならないだろう、と推測します。お金のかかる民間資格検定試験は個人負担になるでしょうし、また海外留学などはお金持ちにしかできません。こうして、教育格差はますます広がることになりそうです。小林さんは「多くの子どもはチームジャパンを下支えする人材としてしか見られていないのでは?」と危惧しています。もしかしたら、グローバル社会のなかで活躍する一部の優秀な人材が出ればそれでいい、と行政は考えているのかもしれません。では、残された庶民の幸せは一体どこへ…?

 「何のため、誰のための教育改革?」小林さんのお話から見えてくる姿はどうやら「国のため、一部の優秀な人材のための教育改革」ということになるのかもしれませんね。
 もしかして、今始まっている教育改革の成れの果ては「一将功成りて万骨枯る」ってことに! うーん…。   

(斉藤 悦雄)

【インフォーメーション】
『武州大学』3月16日(土)7:00p.m.~
  テーマ :『労働法』を考える part3
  レポート:紺野正さん