武州通信武州ゼミナールのBLOG

『武州通信』第255号

 このところ何でもかんでも「平成最後の…」という言葉が巷に溢れています。この風潮って何だか嫌だなぁ!と思いながらも、ミーハーにも風潮に流されて、「平成最後の『武州通信』」です。

《コミュニケーション能力?》の巻

 最近では、SNSで自分の気分を自由に発信し、他者から「いいね」と言われたい欲望が満ちているように見えます。まぁ、それだけ自分の気持ちを自由に言える良い時代がやってきた、とも言えそうですが。また、新しい教育制度では子ども達が主体となって、さまざまなことを自由に調べ、臆せず発表できることが目標とされています。“何が真実か?” が判然としない時代、自分の頭で考えて発言すること、確かにこれも悪くはなさそうですね。

 このように書きながら、古い僕には何か釈然としない気分も同伴しているのです。話術に長けること、これが果たして、コミュニケーション能力なのか?と。いや、確かに自分の気持ちや意見を臆せず上手に表現できることはその一助になるのかもしれません。コミュニケーションとは「他者との呼応」のことなのですから。
 そんなことをごちゃごちゃ考えながら、ふと自分の塾の足下(授業)を眺めてみると、これまで深く意識したことのないあることに気がつくのです。それは…。

 先日もある生徒が質問文をほとんど読まずに問題に向かっているので、「出題者が何を求めているのかしっかり考えないとね」と話しながら、ふと、もしかしてこれってコミュニケーションの問題かもなぁ?と。でもそれは僕と生徒のコミュニケーションのことではありません(もちろんそれも含まれますが)。ここで僕が言いたかったのは、出題者の問いかけに対して解答者(生徒)がしっかり耳を傾けなければ決して正解には辿りつけない、ということです。なるほど、そう考えてみると、あらゆる教科がコミュニケーション能力を前提にしていることに気がつきます。そして、問題を解くことによって生徒のコミュニケーション能力を涵養することになっているのかも、と。確かに一方通行ですから果たして完全なコミュニケーション(呼応)といえるかどうかは疑わしいのですが、そこは出題者に代わって教師が生徒の疑問に応える位置にあるということになるのかもしれません。しかも、教師は生徒の疑問に応えるときに出題者とは異なった立場で生徒の意見に耳を傾けることもできるのです。このようして、このコミュニケーションは成立するのかもしれません。
 しかし、これが成立するためには欠かせない条件があります。生徒が先ず出題者の質問をしっかり読んで考える作業が不可欠です。ところが、これが一部の子どもにはなかなか難しいようです。面倒臭さが先に立ち、何でも答えが合っていればそれでいいじゃないか、とか、間違ってもそのままの姿勢でやり直そうとする、とか…。それでいて不思議にも成績には拘っているのですから、何だかちょっと可愛くもあるのですが。こんなことを頭に浮かべてみると、確かに “成績の良い子は出題者の意図を深く読み取り、質問も思いつきではなく的確であることが多いなぁ!” と改めて思うのです。

 ところで、ここで僕が何を言いたいのかというと、僕らが子どもだった頃から教科と生徒と教師によって、生徒のコミュニケーション能力の一部を培ってきたのではないか、ということです。とはいえ、これが充分機能してきたか、というとそれも覚束ないのだけれど。もちろん、コミュニケーション能力は勉強だけで鍛えられるわけではなく、日常生活のさまざまな関わりのなかで培われることが大きいに違いありません。
 それはさておき、これまでの教育は、自分勝手な意見を口にする前に、相手(出題者)の質問にしっかり耳を傾けることを強く求めてきたのではないか、少なくともそういうコミュニケーションの効果を期待していたのではないか、と思うのです。とはいえ、相手(出題者)の意見を聴き取ることが第一で自分の意見は二の次だったとは言えそうですが …。

 さて、昔から『学んで思わざれば則ち罔し。思うて学ばざれば則ち殆うし。(学んでも考えなければ物事は判らない。考えても学ばなければ独断に陥って危険である。)』と言います。― その通りですね。ここには有意味なコミュニケーションのための必須条件が含まれているような気がします。

 しかしこれからは、時代も教育制度も変わり、他人の意見に耳を傾けることより自分の意見を語ることが重視され、自分の気分を身勝手に言い募るだけの危うい人がますます増えるのではないかなぁ?と ちょっぴり気にかかるのです。だって、自分の意見だけではコミュニケーションは成立しないのですから…。
 まぁそうは言っても、これまでとはベクトルが逆になるだけで、どちらにしても中途半端なことには違いないのだけれど…。 

(斉藤 悦雄)

【インフォーメーション】
『武州大学』5月18日(土)7:00p.m.~
  テーマ :『労働法』を考える part5
  レポート:紺野正さん